文具デザイナーになるにはどのようなスキルが必要なのでしょうか。
この記事では、具体的な仕事内容から、有名な文具デザイナーとその代表作、さらにはデザイナーが愛用する仕事道具まで、幅広く解説します。
また、ヒット商品のデザインストーリーや海外の文具ブランドのデザイナー、心ときめく美しい文房具やデザイナーズ文具の世界にも触れていきます。
人気のお文具さんのデザイナーは誰なのか、文具デザイナーの発想やコンセプトはどこから生まれるのか、そして文具業界の最新トレンドまで情報をまとめました。
ポイント
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文具デザイナーに求められる具体的なスキルやキャリアパス
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アイデア創出から商品化までのリアルな仕事の流れ
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国内外の有名デザイナーや人気ブランドの魅力と背景
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文具業界の動向と将来求められるデザイナー像
文具のデザイナーになるための知識
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文具デザイナーになるには?必要なスキル
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文具デザイナーの発想とコンセプト作り
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デザイナーが愛用する仕事道具を紹介
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文具業界の最新トレンドを抑えよう
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ヒット商品のデザインストーリーに迫る
文具デザイナーになるには?必要なスキル
文具デザイナーを志す上で、特定のスキルセットを身につけておくことがキャリアを築くための基盤となります。
多くの企業で共通して求められるのは、デザイン制作の根幹をなすデジタルツールを扱う技術です。
具体的には、Adobe IllustratorとPhotoshopの操作スキルが必須条件として挙げられることがほとんどです。
Illustratorは商品の形状やパッケージのレイアウトを作成するために、Photoshopはデザインカンプの作成や写真加工などに用いられます。
これらのソフトウェアをどの程度使いこなせればよいかというと、単に操作方法を知っているだけでなく、商業デザインとして通用するレベルのデータを作成できる能力が求められます。
そのため、デザイン系の大学や専門学校で基礎を学ぶのが一般的なルートです。
しかし、学歴が全てではなく、独学や社会人向けのスクールでスキルを習得し、未経験からでも挑戦する道は存在します。
また、グラフィックデザインのスキルに加えて、プロダクトデザインに関する知識も大きな強みとなります。
例えば、3D CADソフトを使って立体的なモックアップを作成できる能力や、製品の素材、加工方法に関する知識があると、より実現性の高いアイデアを提案できます。
求人情報によっては、DTPの経験やECサイトの運用経験、語学力なども歓迎される条件として記載されており、幅広いスキルがキャリアの可能性を広げることがわかります。
そして、スキルと同じくらい大切なのが、自分のデザイン能力を証明するためのポートフォリオです。
これは、単に美しい作品集というだけでなく、自分のデザインコンセプトや思考のプロセスを伝えるための重要なツールです。
どのような課題に対して、どう考え、デザインとしてアウトプットしたのかを論理的に説明できるポートフォリオは、採用担当者に強い印象を与えます。
文具デザイナーの発想とコンセプト作り
優れた文具デザインは、単なる美しい形から生まれるわけではありません。
その根底には、ユーザーの課題を解決し、新しい価値を提供するという明確な発想とコンセプトが存在します。
では、文具デザイナーたちはどこからアイデアを得ているのでしょうか。
多くの場合、その源泉は日常生活の中に潜んでいます。
例えば、三菱鉛筆の「ジェットストリーム」は、開発者自身が従来の油性ボールペンに感じていた「書き味の重さ」という個人的な不満から生まれました。
このように、自分自身や周囲の人が感じている「こうだったらいいのに」という小さな気づきが、革新的な商品開発の出発点となるのです。
また、デザインフィルのヒット製品『ディークリップス』の開発を担当した中村真介氏は、アイデアを常にメモし、時間をかけて熟成させたり、異なるアイデアとブレンドさせたりすることを語っています。
すぐに形にならないアイデアでも書き留めておくことで、ある時、技術の進歩や他の人との対話がきっかけとなり、実現可能になることがあるのです。
無印良品のデザイナーとして知られる加賀谷優氏は、ゼロの状態から本当に必要なものだけを足していく「足し算」のデザインプロセスを実践しています。
市場調査から始めるのではなく、その物が使われる背景を深く洞察し、本質的な価値を見極めることで、長く愛される普遍的なデザインを生み出しているのです。
これらのことから、文具デザイナーにとって大切なのは、常に好奇心を持ち、広い視野で物事を観察する姿勢であると言えます。
文具の展示会だけでなく、異業種の工場や展示会に足を運ぶことで、新しい技術や素材に出会い、それが文具デザインに応用できるかもしれません。
コンセプト構築のプロセス
発想を具体的な製品へと昇華させるためには、しっかりとしたコンセプトの構築が不可欠です。
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課題の発見: ユーザーが何に困っているのか、どんなニーズがあるのかを深く掘り下げます。
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ターゲット設定: 誰のための製品なのかを明確にします。年齢、性別、ライフスタイルなどを具体的に想定します。
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提供価値の定義: その製品を使うことで、ユーザーにどのような利益や喜びをもたらせるのかを定義します。
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デザインへの落とし込み: 定義した価値を、形、色、素材、機能といったデザイン要素で表現していきます。
このような論理的な思考プロセスを経ることで、単なる思いつきではない、市場に受け入れられる説得力のあるデザインが生まれるのです。
デザイナーが愛用する仕事道具を紹介
プロのデザイナーがどのような道具を使っているのかは、多くの人が興味を持つ点です。
彼らが選ぶ道具には、創造的な仕事を支えるための機能性や哲学が反映されています。
調査によると、デザイナーたちは必ずしも最新・高価なものだけを選ぶのではなく、長年愛されている定番品や、特定の機能に特化したこだわりの逸品を使い分けていることがわかります。
例えば、デザイン事務所PLANTISの山口圭二郎氏は、ニチバンの南部鉄製テープカッターを愛用しています。
その理由は、2kgという重量による安定感と、無駄な主張がなく、あるがままに存在するような無骨なデザインにあると言います。
新たにデザインする必要性を感じさせないほどの完成度が、クリエイティブな作業に集中できる環境を作り出しているのです。
イリモノデザイン製作所の岡本正人氏は、アイデア出しにチェコの老舗メーカー「コヒノール」の芯ホルダーを使用しています。
太い芯で気負わずに手を動かせる楽しさと、金属とプラスチックの絶妙な重量バランスが、思考を妨げずにアイデアを広げる手助けとなっているようです。
また、フリーランスで活動する井上綾氏は、マルマンのノート「ニーモシネ」を指名買いし続けています。
ページを3分割する太い罫線やメモリといった、さりげない工夫が、意識せずとも情報を整理しやすくしてくれる点を高く評価しています。
これらの例から、プロのデザイナーは道具に対して以下の点を重視していると考えられます。
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機能性: 思考や作業の妨げにならない、信頼性の高い基本性能。
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デザイン性: 主張しすぎず、しかし所有する喜びを感じさせる美しい佇まい。
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インスピレーション: 使うこと自体が楽しく、創造性を刺激してくれるような遊び心や物語性。
一方で、アートディレクターの平林奈緒美氏のように、ポストイットの端がめくれるといった些細な不便を解消するため、業務用製品の中から理想の道具を探し出すというアプローチもあります。
彼女の選択基準は「機能を満たす単純な作り」であり、加飾を排した究極のシンプルさに行き着いています。
このように、デザイナーが選ぶ道具は多種多様ですが、その根底には「自分の仕事を最も効率的かつ快適に進めるための最適なパートナー」という共通の視点があると言えるでしょう。
文具業界の最新トレンドを抑えよう
文具業界は、成熟市場と言われながらも、常に新しい価値観を取り入れ変化し続けています。
矢野経済研究所の調査によると、2022年度の国内文具・事務用品市場は3,986億円となり、ペーパーレス化や少子化の影響を受けつつも、個人消費、いわゆるパーソナルユースの分野で新たな需要が生まれています。
これから文具デザイナーを目指すなら、これらの最新トレンドを理解しておくことが不可欠です。
パーソナル化と高付加価値化
法人需要が停滞する一方で、個人が自分の好みやライフスタイルに合わせて文具を選ぶ傾向が強まっています。
この流れを象徴するのが「女子文具」というカテゴリーの盛り上がりや、手帳を自分らしく飾る「手帳デコ」の流行です。
また、比較的高価格帯であっても、機能性やデザイン性に優れた製品が受け入れられる土壌ができており、特に高機能シャープペンシル市場は活況を呈しています。
ユーザーは単なる「書くための道具」としてではなく、自己表現や趣味の道具として文具に新たな価値を見出しているのです。
デジタル化との融合
GIGAスクール構想による教育現場のデジタル化や、働き方の多様化は、文具のあり方に大きな影響を与えています。
これに対応し、文具メーカー各社はデジタルとアナログを融合させた新しい商品を開発しています。
例えば、手書きのメモが瞬時にデジタルデータ化されるモレスキンの「スマートライティングセット」や、モンブランの「オーグメントペーパー」などがその代表例です。
また、パイロットの蛍光ペン「キレーナ」のように、学生のデジタル学習と並行して使われるノートへのマーキングを快適にするための工夫を凝らした製品も登場しています。
サステナビリティへの意識の高まり
環境問題への関心が高まる中、文具業界でもサステナビリティ(持続可能性)を意識した製品開発が重要なテーマとなっています。
具体的な取り組みとしては、以下のようなものが挙げられます。
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エコ素材の採用: 再生樹脂を使用したカッター(エヌティー「eA-300」)や、適切に管理された森林の木材から作られるFSC認証の鉛筆(スタビロ「グリーングラフ」)など。
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アップサイクルの実践: コピーの裏紙を再利用するためのノートカバー(イリモノデザイン製作所「裏紙ノート」)のように、廃棄されるものに新たな価値を与える動き。
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長く使えるデザイン: 消耗品で終わらせず、愛着を持って長く使えるような、丈夫で飽きのこないデザインの追求。
これらのトレンドは、これからの文具デザイナーにとって、デザインの制約であると同時に、新しい価値を創造するための大きなチャンスでもあります。社会の変化を敏感に捉え、時代が求める文具を提案する力が、今後ますます求められていくでしょう。
ヒット商品のデザインストーリーに迫る
文具の歴史を彩るヒット商品には、その誕生の裏に必ずと言っていいほど興味深いストーリーが存在します。
それらの物語を紐解くと、多くの製品がユーザーの潜在的な不満や課題を解決するという、明確な目的を持って開発されていることがわかります。
単なる偶然やひらめきだけでなく、緻密な観察と試行錯誤の積み重ねが、多くの人に愛される製品を生み出しているのです。
ユーザーの「不満」を「快適」に変える
三菱鉛筆の油性ボールペン「ジェットストリーム」は、その代表例です。
開発のきっかけは、担当者自身が感じていた「従来の油性ボールペンは、筆圧が弱い自分には書きにくい」という悩みでした。
この個人的な課題意識から、「なめらかで、濃く、速く乾く」という、それまでの油性ボールペンの常識を覆すインクの開発が始まりました。
前例のない開発は困難を極め、インクの試作数は5桁に上ったといいます。
まさに、ユーザーの「不満」を徹底的に解消しようという執念が、爆発的なヒット商品を生んだのです。
同様に、パイロットの蛍光ペン「キレーナ」も、学生たちが抱えるマーカーへのストレスに着目して開発されました。
アンケートで明らかになった「定規にインクがつく」「書いた文字がにじむ」「真っすぐな線が引きにくい」といった不満を解消するため、柔らかくしなるペン先と透明なガイドを組み合わせるという独自の構造を採用。
6年という長い開発期間を経て、ユーザーの悩みに一つひとつ応える製品が完成しました。
新しい「価値」を提案する
課題解決だけでなく、新しい価値観を提案することもヒットの要因となります。
デザインフィルの『ディークリップス』は、書類を留めるという基本的な機能はそのままに、動物や乗り物のかわいらしい形を与えることで、クリップに「繰り返し使いたくなる愛着」や「コミュニケーションのきっかけ」という新しい価値を付加しました。
書類を受け取った相手が思わず笑顔になるような、ささやかな喜びをデザインしたことが、ロングセラーにつながっています。
これらのストーリーから、文具デザイナーには、人々の行動や心理を深く観察し、言葉になっていないニーズを汲み取る洞察力が不可欠であることがわかります。
なぜユーザーは不便を感じるのか、どうすればもっと楽しく、快適になるのか。その問いに対する自分なりの答えをデザインとして形にすることが、ヒット商品を生み出す鍵となるのです。
文具のデザイナーが創る魅力的な世界
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有名な文具デザイナーとその代表作
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海外の文具ブランドのデザイナー達
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心ときめく美しい文房具の魅力
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話題のデザイナーズ文具をチェック
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人気のお文具さんのデザイナーは誰?
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文具のデザイナーになりたい人はこのスキルがポイント
有名な文具デザイナーとその代表作
文具の世界には、その哲学や美意識によって、数々の名作を生み出してきたデザイナーたちがいます。
彼らの仕事は、単に製品の形を整えるだけでなく、私たちの使い方や生活そのものに影響を与えてきました。ここでは、文具史に名を刻む何人かのデザイナーとその代表作を紹介します。
加賀谷 優(かがや ゆう)
無印良品の創成期から、数多くのプロダクトデザインを手がけてきたデザイナーです。
彼のデザインは、奇抜さを追わず、ごく普通の暮らしに寄り添うことを目指しています。
代表作の一つである「脚付きマットレス」は、ベッドでありながらソファやベンチにもなるという、使い手自身が用途を決められる汎用性の高さが特徴です。
このように、デザイナーの意図を押し付けるのではなく、使い手の生活に溶け込み、自由な解釈を許容するデザイン哲学が、長く愛される製品を生み出しています。
ゲルト・アルフレッド・ミュラー
ドイツのデザイン史に名を残すデザイナーで、ラミー社のアイコン的製品「LAMY 2000」を手がけたことで知られています。
1966年に発表されたこの製品は、「西暦2000年になっても通用するデザイン」という驚くべきコンセプトのもとに作られました。
ステンレスと樹脂を組み合わせたミニマルなフォルムは、発表から半世紀以上が経過した現在でも全く色褪せることがありません。
バウハウスの思想である「機能によってかたち作られるデザイン」を体現した、まさに不朽の名作です。
深澤 直人(ふかさわ なおと)
日本を代表するプロダクトデザイナーの一人で、彼もまたラミーのデザインを手がけています。
彼がデザインしたボールペン「LAMY noto」は、三角形の断面を持つシンプルながらも握りやすい形状が特徴です。
ラミーが日本人デザイナーを起用したことでも話題となり、ラミーの哲学と日本のデザイン感覚が融合した好例として評価されています。
これらのデザイナーに共通するのは、表面的な美しさだけでなく、その物が使われる背景や、使う人の行動を深く洞察している点です。
彼らの作品に触れることは、文具デザインの奥深さを知る上で、非常に良い学びとなるでしょう。
海外の文具ブランドのデザイナー達
世界には、その国ならではの文化や歴史を背景に、個性豊かな文具を生み出し続けるブランドが数多く存在します。
各ブランドのデザインには、国民性や美意識が色濃く反映されており、それらを知ることはデザインの引き出しを増やすことにも繋がります。
ここでは、代表的な国のブランドとその特徴を見ていきます。
ドイツ:機能美と精密さの追求
ドイツの文具は、しばしば「質実剛健」と評されます。
これは、1919年に設立された美術学校「バウハウス」が提唱した、合理主義・機能主義的なデザイン思想に大きな影響を受けています。
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LAMY(ラミー): 「機能によってかたち作られるデザイン」を哲学とし、外部の著名なデザイナーを積極的に起用することで、モダンで革新的な製品を生み出し続けています。代表作「サファリ」は、人間工学に基づいたグリップや大きなワイヤークリップなど、デザインと機能が見事に融合しています。
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STAEDTLER(ステッドラー): 製図用品で世界的に有名であり、その製品はプロのデザイナーや建築家から絶大な信頼を得ています。精度と品質への妥協のない姿勢が、ブランドの核となっています。
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Faber-Castell(ファーバーカステル): 1761年創業の世界で最も歴史のある筆記具メーカーの一つ。高級色鉛筆などで知られ、その品質と美しいデザインは、ゴッホをはじめとする多くの芸術家にも愛されてきました。
フランス:日常にエスプリを添える
フランスの文具は、実用性の中にエレガンスや遊び心(エスプリ)を感じさせるものが多く見られます。
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BIC(ビック): 日常使いのボールペンの代名詞ともいえるブランド。「オレンジEG」や「クリックゴールド」など、シンプルでレトロなデザインは世界中で親しまれています。手頃な価格でありながら、生活を少し楽しくしてくれる存在です。
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RHODIA(ロディア): 鮮やかなオレンジ色の表紙がアイコンのメモパッド。計算された機能美と、どんな筆記具でも滑らかに書ける紙質が、クリエイターをはじめ多くの人々に愛用されています。
イタリア:クラフトマンシップと華やかさ
イタリアのブランドは、職人技(クラフトマンシップ)と、人生を謳歌するような明るく華やかなデザインが特徴です。
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Leonardo Officina Italiana(レオナルド オフィチーナ イタリアーナ): 2018年に誕生した新しいブランドですが、美しいレジン素材を使った万年筆やボールペンで注目を集めています。南イタリアの風景から着想を得たという色彩は、まさに芸術品です。
これらの他にも、高品質で知られるスイスのCaran d'Ache(カランダッシュ)や、クラシックなデザインが魅力のイギリスのParker(パーカー)など、ヨーロッパには魅力的なブランドが数多く存在します。
それぞれのブランドが持つ歴史や哲学を学ぶことは、文具デザイナーとしての視野を広げてくれるでしょう。
心ときめく美しい文房具の魅力
文房具は、単に文字を書いたり、書類をまとめたりするための道具ではありません。
時には、オブジェのようにデスク周りを彩り、所有するだけで気分を高めてくれる存在にもなり得ます。
近年、機能性だけでなく、審美性やデザイン性を重視した「美しい文房具」への関心が高まっています。
このような文房具の魅力は、仕事や学びのモチベーションを向上させ、創造性を刺激する効果がある点にあります。
インテリアとしての文房具
デザイン性の高い文房具は、もはや実用品の枠を超え、インテリアの一部として空間を豊かにします。
例えば、ミッドセンチュリーの巨匠ジョージ・ネルソンがデザインしたヴィトラの置き時計や、建築家フィリップ・マインツァーが手がけたe15の大理石製ブックエンドなどは、その彫刻的な佇まいで、デスクに洗練された雰囲気をもたらします。
機能を持ったアート作品とも言えるこれらのアイテムは、日々の暮らしに知的な彩りを加えてくれるのです。
素材の質感を味わう
美しい文房具は、その素材感にも魅力があります。
カール・オーボックがデザインした真鍮のペーパーウェイトや、ファーバーカステル伯爵コレクションの木軸鉛筆、ステッドラーの一枚革で作られたペンケースなどは、使い込むほどに風合いが増し、経年変化を楽しむことができます。
手に触れたときの心地よさや、素材特有の重み、香りは、デジタルツールでは得られない五感を刺激する体験を提供します。
色彩がもたらす高揚感
色は、人の感情に直接働きかける力を持っています。
オーダーメイドインクで知られる「inkstand by kakimori」が提供する、美しい名前のついたオリジナルインクや、パリ発のブランド「PAPIER TIGRE」の鮮やかな幾何学模様のノートなどは、デスクにあるだけで心を華やかな気持ちにさせてくれます。
退屈に感じがちな作業も、お気に入りの色の文房具を使うことで、楽しいひとときに変わるかもしれません。
このように、美しい文房具は私たちの感性に訴えかけ、日々の生活をより豊かにする力を持っています。
これから文具デザイナーを目指す人は、機能性という側面だけでなく、人が「美しい」と感じるものは何か、なぜそれに心惹かれるのかを深く探求してみることも、デザインの幅を広げる上で有益なアプローチとなるでしょう。
話題のデザイナーズ文具をチェック
近年、デザイン性と機能性を高いレベルで両立させた「デザイナーズ文具」が、多くの文具ファンやデザイン感度の高い人々から注目を集めています。
これらの製品は、特定のデザイナーやデザインチームが明確なコンセプトのもとに開発しており、単なる道具以上の価値を提供してくれるのが特徴です。
ここでは、特に話題となっているいくつかのブランドや製品を紹介します。
Craft Design Technology(クラフトデザインテクノロジー)
日本の主要文具メーカーの技術と、第一線で活躍するデザイナーの知見を融合させて生まれたブランドです。
伝統的な職人技と最先端のテクノロジーを掛け合わせることをコンセプトに、普遍的で美しいデザインのアイテムを展開しています。
例えば、同社のステープラーは、素材やサイズ、面が計算され尽くしたデザインで、綴じる際にも針を補充する際にも無駄な力がいらないと評価されています。
penco(ペンコ)
アメリカの古い文房具のような、どこか懐かしくてアナログな雰囲気が魅力のブランドです。
スチール製の「クランピークリップ」や、犬の頭をモチーフにしたユニークなフォルムのステープラーなど、日常業務にちょっとした楽しさと彩りを加えてくれるアイテムが揃っています。
デザインだけでなく、頑丈で実用性が高い点も人気の理由です。
HEDERA(ヘデラ)
TSUTAYAが展開するオリジナル文具ブランドです。
無駄を徹底的に削ぎ落としたミニマルでスタイリッシュなデザインを特徴としており、多くのアイテムが黒で統一されています。
アルミ製の定規は、レーザー刻印で目盛りが消えにくく、横穴によって線引きの際にズレにくい工夫が施されています。
デザイン性と実用性を兼ね備えながら、比較的手に取りやすい価格帯であることも魅力の一つです。
KING JIM「氷印(こおりじるし)」
2024年度のグッドデザイン賞を受賞した、新しいコンセプトのスタンプです。
持ち手から印面に至るまですべてのパーツが透明なアクリルやゴムで作られているため、捺したい場所に正確に位置合わせができるのが最大の特徴です。
インクの付き具合も一目でわかるため、多色押しなどのアレンジも失敗しにくく、デコレーションの楽しみを大きく広げました。
「失敗できない」というスタンプ使用時のストレスを、デザインの力で見事に解決した例と言えます。
これらのデザイナーズ文具は、私たちに「選ぶ楽しさ」や「使う喜び」を与えてくれます。
文具デザイナーを目指す上で、こうしたブランドがどのようなコンセプトで製品を生み出し、ユーザーからなぜ支持されているのかを分析することは、非常に有益な学びとなるでしょう。
人気のお文具さんのデザイナーは誰?
SNSを中心に幅広い世代から絶大な人気を集めている、白くて丸い癒し系キャラクター「お文具さん」。
そのほんわかとした世界観と、心に染みる優しい言葉に、多くの人が魅了されています。
この「お文具さん」を生み出したのは、一体どのような人物なのでしょうか。
「お文具さん」の作者は、その名も「お文具」という個人イラストレーターです。
メディアのインタビューによると、大学卒業後は酒蔵に勤務しながら、趣味でイラスト制作を始めたといいます。
元々は、教科書やノートの余白を埋めるための落書きから「お文具さん」の原型が生まれ、それを自身の備忘録として4コマ漫画にし、2018年頃からTwitter(現X)で投稿を開始したのが活動の始まりでした。
当初は、作者自身が「自分が癒されたい」という思いで描いていた作品が、口コミで少しずつ広がり、キャラクターの持つ優しさや温かさが人々の共感を呼び、大きな人気へと繋がっていきました。
現在ではYouTubeチャンネル「お文具のアニメ」の登録者数は86万人を超え(2024年時点)、POP UP STOREが開催されるなど、その活動は多岐にわたっています。
ちなみに、「お文具さん」のファンのことは「ぶん学者」と呼ばれ、親しまれています。
驚くべきことに、『お文具のアニメ』は、ストーリー作りから作画、編集、投稿まで、そのほとんどを作者一人が2~3日かけて行っているそうです。
この手作り感もまた、作品の温かみを生み出す要因の一つかもしれません。
「お文具さん」の成功は、必ずしも大手メーカーや著名なデザイナーでなくても、個人の純粋な発想とSNSというプラットフォームを活用することで、多くの人の心を掴むキャラクターやコンテンツを生み出せる現代のクリエイティブシーンを象徴する事例と言えるでしょう。
文具のデザイナーになりたい人はこのスキルがポイント
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デザインソフト(Illustrator/Photoshop)の習熟
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プロダクトデザインの基礎知識(3D CAD、図面など)
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企画立案から商品化までのプロセス理解
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市場調査とユーザーニーズの分析力
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アイデアを形にするためのコンセプト構築力
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日常の観察や異分野から着想を得る好奇心
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定番品から最新トレンドまで幅広い製品知識
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デザイナー自身の愛用道具に見る機能美へのこだわり
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ヒット商品に隠された課題解決の視点
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国内外の有名デザイナーの哲学や思想
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デジタル化、パーソナル化、サステナビリティといった業界トレンドへの対応
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多様な価値観を理解するグローバルな視野
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チームで協業するためのコミュニケーション能力
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自身の作品を効果的に見せるポートフォリオ作成術
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失敗を恐れず挑戦し続ける姿勢
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